2012-06-30

CLUBMAN ESTATE レストア日誌 VOL.8



僕のクラブマンもレストア入庫して6か月になる。

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ほぼ、内装の組み込みも終わって完成と思いきや、
用意していた当時ものの純正ステアリングホイールがはまらないことが判明。
僕のクラブマンはすでに1300CCのインジェクションエンジンにコンバート済みの為、
ステアリングのセンターの直径とステーのそれとがまったく合わない...。
インジェクションモデルのステアリングステーが
不細工に太いのが気に入ってなかった僕は、
ここぞとばかり、旧車のステーを移植することにした。
うまい具合にキー付きのステーが親方のストックから出てくるもんだから。

趣味のことで妥協は良くない。
普通なら、ワンオフでボスを作って組み込むんだろうけど。

親方曰く、
インジェクションエンジンの積み替えで
古いステーを新しいのにしたことはあるけど、
その反対はしたことがないなー。と腕組み。

インジェクションの方がいろいろと配線が多いので、
それをどこかに逃がしてスイッチを増設して...。
あーやって、こーやって...。
作業をしない僕はその辺りの話はあまり記憶にない。

“また無理言ってますよねー。”という僕に
“いやぁー。”と親方は苦笑い。


週明けの火曜日に仕上がるらしい。
波があがったら、
海岸線を気持ちよくながすつもり。

古いステアリング握って。

ロータスカリフォルニア たなかひろし




2012-06-24

THAT’S ONE SMALL STEP FOR A MAN, A GIANT LEAP FOR MANKIND...



ついに禁断のものに手を染めてしまった...。

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50年代~60年代のモノ録音のレコードをモノカートリッジで聴く。
というとてもあたりまえのことをいままでやってなかった。

ものぐさな僕はモノカートリッジDENONのDL102を買ったものの
いろいろなことの後回しにしたまま2年がたった。
たた単純に、
カートリッジ交換の簡単なユニバーサル型のアームのついたプレーヤーが
倉庫にしまっていたので引っ張りだすのが面倒だっただけなんだけど。

ずいぶん昔、
そうまだ僕の尻が青いころにDJみたいなことを
音楽好きの仲間3人とでミナミのバーで毎週一度だけ朝までやっていた。
仲間のやさしい絵描きはロックを、
男っぷりのいい美容師は4つ打ちを、
僕はソウルとジャズを自分たちの酒の肴にプレイしていた。
もちろんフロアーにはいつもだれもいなかった。
その頃に手に入れたテクニクスSL-1200を倉庫から引っ張りだして来た。
手持ちのプレーヤーでユニバーサル型はこれしかない。


あれこれ調整して出て来たDL-102の音が物足りない...。
ガッツがない、
ベースのブルンッもなければ、シンバルのパシャーンもない。
昇圧トランスを探そうかとリサーチしていたら、
ブログで知り合っためんくいさんから
アメリカGEのモノカートリッジがいいよという神の声。(OR悪魔のささやき?)

このGEのトリプルプレイはひとつのカートリッジに
2種類の針をつけれるというすぐれもの。
でもふたつだからダブルプレーじゃないの...。と引っかかりつつ。
ひとつにはモノオリジナル時代の1ミル針を、
もうひとつには、ステレオ時代になってからの再発モノ盤用の0.7ミルの針を
という使い方ができるのでとても便利。
(これひとつでSP盤、LP盤、EP盤と使えるからトリプルプレーというらしい。)

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なかなかうつくしいデザイン。こちらは60年代のバリレラVRⅡ。

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赤いノブを押さえてくるりと廻すと針も回る。
ドリフの舞台みたいなおもしろさ。

音が左右に広がるステレオとは違い、
モノの音はスピーカーの中央に音が集まり縦方向に音場が広がる。
音のかたまりがどーんと迫る感じは独特でくせになる。
まるでたっぷりとたたえたダムの水が上から放水される感じとでもいうのか。
降り注ぐ音のしぶきが気持ちいい。
ステレオ針のように上下の動きがないからか
トレースはいたってスムース。
いままで気になっていたモノ盤のノイズもにごりもめっきり減って、
曇った空が晴れ渡り、
あきれる位気持ちのいい音が出てくる。
音楽の気持ち良さを素直に満喫できる感じ。



お店でジャズを鳴らしていると、
オーディオマニアでも、音楽マニアでもない女性がほつりと
“あー、いい音ー。”って...。
温泉で、“あー、いいお湯ー。”ってつぶやく感じで。
こういうのが一番うれしい。

いろいろ言いたいのを我慢して僕はただレジカウンターの中でにやにやする。

ロータスカリフォルニア たなかひろし

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ORIGINAL MONO
こちらには1MILの針で。
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再発のモノ盤も気持ちよく鳴る。
もちろんこちらには0.7MILの針で。
ジェリー・マリガンのクルーカットにデザートブーツとパンツ丈が秀逸ね。
IVYは体型を選びます。




2012-06-18

THE COMMITMENT.



衝動的にどうしても食べくなったものがあって友達に連絡した。
そこまですることってあまりないんだけど。

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あるときテレビのリモコンでチャンネルをかえているとき、
ひどくむずかしい顔した職人がパンを焼いている映像が気になって
そのまま番組を見続けた。

世界中のパン職人が腕を競うクープ・デュ・モンドという
大会の日本代表チームに、
地方の個人経営の店からは初めて選ばれたそうで、
チームリーダーとして活躍し、世界3位に選ばれたそうだ。
そんなことよりも、
そういうレベルの職人が一生懸命に焼き上げたパンが
いち地方都市で食べられるということに
僕はうれしくなった。

実にうまい具合に岐阜に越していった友達がいるので、
無理いって送ってもらうことになった。

友達曰く、“最近テレビに出て以来、すごい人気でなかなか買えないんですよー。”
“いつになるかわかりませんよー。”って。

資本投下しておおきな看板の元、銀座あたりで営業しているなら
別段興味も持たなかったんだろうけど、
街のパン屋としてその街の食文化とコミットしているところに
すごく興味をひかれてどうしても食べたくなった。
もちろん、焼きたてがうまいに決まってるけどね。

僕の街にも、個人的偏愛の対象のパン屋がいくつかある。
打出駅そばのレミュウの長時間低温発酵バゲット、
芦屋ビゴのアラシエンヌ、
店の近くにもあるフランスのPAULのフルート、
セイムアッシュのバゲッティーヌ。

街においしいパン屋があるように、
僕の店も神戸元町の服文化とそこにいる人たちにコミットするつもりでやっている。
世界大会には出れないけどね。

ロータスカリフォルニア たなかひろし

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うつくしいクープ。

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すこし甘めな中身。全粒粉をブレンドしてるのかな。
このモッチリ感だすにはライ麦をブレンドしてるのかな。
なんて考えるのも楽しい。


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おいしいバケットにあわせて今宵はシンプルな晩餐。




2012-06-16

ARE YOU EXPERIENCED? / QUAD ESL57



梅雨になると思い出すものがある。
好きで好きで手に入れたけど、どうしてもうまく使いこなせなかったあれ。

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強く張った二枚の薄いラップのような膜に
高電圧をかけて振動させて音を出す特殊な仕組みのこのスピーカーは、
湿度が高いと膜どうしが接触して壊れやすいらしく、
梅雨の間はエアコンの除湿を常にかけていた。


僕は好きになったものは骨の髄までしゃぶり尽くしてやろうと思っている。

そのたたずまいの良さ、
スピーカーとは思えないデザインの斬新さに惚れ込んで
音も聴かずに手に入れた英国QUAD ESL 57。(1957年のデザイン)

かのチャールズ・イームズもSTEPHENS社になかなかのスピーカーを残したけど
これほど美しいスピーカーは他には無いと思う。
その美しさに入れ込んでいた僕はフロントパネルを新品に張り替え、
サイドのフレームも家具屋でレストアし、
そのエレガントな脚も新品に取り替えた。
(もちろんオリジナルは保管しておいた。)

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眺めているだけでも満足だった。はじめのうちは。

イギリスのBBCがモニタースピーカーとして使っていた由緒ある名機。

でも僕の部屋ではさえない音でしか鳴らなかった。
いや、ただ鳴らせなかっただけかもしれない。

QUAD44と405の純正セットで出て来た音は、
隣の部屋から聞こえてくるラジオのような音。
メリハリのないBGMというべきか...。
音楽聴いていてもなんだかのれないし心が踊らない。


ESLには電源が重要だと聞いては,
200Vオーディオ専用電源をことのついでに引いてみた。
球のアンプじゃなきゃいい音で鳴らないないよと言われては、
真空管のアンプをつなげてみた。
奇才アンプデザイナー、マーク・レヴィンソンが
ESLを中域だけにつかっていたと知っては
ツィーターとサブウーファーの導入を検討してみたり...。

ESLは部屋の真ん中に置いて後方から出る低域を
自由にさせてやるのが本来の使い方と知り、
家族が留守のときに部屋の真ん中に置いてみた。
いい音になるポイントを探して少しずつ椅子を近づけていくうち
ESLは巨大なヘッドフォンのように僕に近接していた...。

ふと我に返った。
なにやってんだろう...。
まるで惚れた女の子に振り回されるさえない十代の少年の恋愛のようだった。


気づけば音楽を聴かずに、
いい音を出す工夫の日々。
しらずしらずのうちにそこそこに鳴ってくれる
BOSANOVAやFOLKばかりを聴くように。
つまりは低音の入ってない音楽ばかりで、
僕の音楽を聴く楽しみは半減していた。

ヤーメタ!
僕は音楽を聴きたいんだ。
時にはディストーションの効いたジミ・ヘンドリックスのギターを、
レッド・ゼッペリンのジョン・ボーナムのドラムスの重低音を
爆音で浴びるように聴きたいんだ。
降り注ぐ音楽で心を振るわせたいんだ。

一目惚れから覚醒した僕の部屋には、
音楽を聴くことを単純にたのしむために四角いJBLのスピーカーがある。


でもときどきESL57のことを思い出す。
きょうのような雨の日に。
甘酸っぱい初恋のように。


ロータスカリフォルニア たなかひろし




2012-06-08

LISTEN BEFORE YOU KICK THE BUCKET. /ごく私的な名盤紹介VOL.1/30



定期的にレコードラックから引っ張りだして聴くレコードがある。

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いくつかの音楽にはまったくの個人的な思い出が
壁のしみのように絡み付いている。

学生時代、
僕が母校の小学校に教育実習で通っていたときに
知り合った女性があるとき、
“田中くん、音楽、何聴くの?”
“うーん、ビートルズとかスティービー・ワンダーとか...。”
“クラシックはどうもあんまり...。”
(その頃の僕は、学校の先生はクラシックが好きだと思い込んでいた。)
これ、聴くといいよと手渡されたカセットテープがある。


もらったカセットをウォークマンに入れて聴いてみた印象は、
ん? なんかゆるいな...。
カントリーミュージック? フォーク??? 


週末はディスコの大音響の中で過ごしていた当時のたなか青年には
宿命的に音圧と刺激の足りない音楽だった。
せっかくもらったカセットもほとんど聴かないままに
車の中に放り込んだまま数年がたった。

その後数年の間に、
たなか青年はジャズを熱心に聴くようになり
レコード屋に足繁く通ういっぱしの音楽ファンになっていた。
ある日、
車のなかからガサガサと何気なく取り出したテープには
MARIA MULDER/OLDTIME LADYと書いてあり
自分の記憶にはないものだった。
カーステレオに突っ込んで、車のなかに満たされた音楽の心地良さに
僕は車を走らせることを忘れて聴き入った。

ジャズを聴き続けて大人になった僕の耳には
とても美しく魅力的で豊かな音楽だった。
なんでその頃この良さがわからなったんだろうと後悔した。


まだ青かった年の頃のことを
このレコード聴くと思い出す。

ロータスカリフォルニア たなかひろし


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